論文要旨

 

関口知子(2001):「在日日系ブラジル人生徒のアイデンティティの全体像」『異文化間教育』15号 異文 化間教育学会(アカデミア出版会) pp.162-187.

 

 本稿では、「第三の子ども(Third Culture Kid:以下、TCK)」(Pollock and Van Reken,1999)という視点を導入し、日系ブラジル人の子どもたちを巡るアイデンティティとエスニシティの分析を試みた。データは日系ブラジル人の集住地域におけるフィールド調査とその後の断続的な追跡調査に基づく。アイデンティティを探る手段として、「私は誰」テスト(Twenty Statements Test)を使用した。日系ブラジル人の中学生を対象者とし、日本人一般生徒及び帰国生徒の調査結果を対称軸としている。調査の結果を①アイデンティティの全体像、②エスニシティの顕現度と役割、③TCKにみるエスニシティの序列、において検証した。検証の結果、日本の学校で文化化され、すでに日本社会でさまざまな文化化エージェントと関係性を築いている日系ブラジル人生徒は、「わたし」の一部を構成しているに過ぎない「日系ブラジル人」という出自に還元されない存在であるといえる。 

  

石井恵理子(2007):「JSLの子どもの言語教育に関する親の意識―ポルトガル語及び中国語母語家庭の言語選択―」『異文化間教育』26号 異文化間教育学会(アカデミア出版会) pp.27-39. 

 

 本研究は、国立国語研究所が平成7年度〜平成11年度に実施した研究プロジェクト「児童生徒に対する日本語教育のカリキュラムに関する国際的研究」の中で行われた調査データに基づくものである。ポルトガル語と中国語母語の子どもの親の属性等に関する質問項目の回答を本稿のデータとして使用した。データに基づき、親の言語選択と親子間の言語使用の背景にはどのような要因があるかを考察した。さらに、ポルトガル語と中国語母語の子どものTOAM(Test of Acquisition and Maintenance)の結果を母語力・日本語力の資料として、家庭言語の選択と子どもの両言語能力の関係を見た。
 以上の考察により、親が子どもの教育についての見通しを持ち、言語能力の発達を意識的に捉え、環境を整備することが、子どもの言語能力を育てるために必要であると考える。子どもを見つめ、対話して、親としての適切な言語選択と支援を行おうとする意識が不可欠である。   

 

白山真澄(2008)「ニューカマー児童生徒「不就学」問題―実態把握のための諸課題―」『名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要(教育科学)』55巻 第1号 名古屋大学 pp.115-129.

 

 文部科学省が20052007年度に行った「不就学調査」の結果を足がかりに、ニューカマーの子どもの「不就学」に関する問題を検討する。豊田市は2006年度に「不就学実態調査」を実施したが、そこで明らかになったのは、「不明」「帰国」「転居」の多さであった。本研究では、豊田市の調査に参加した調査員6名に半構造化インタビューを行った。インタビューの結果、「不就学」のニューカマーの子どもの正確な数を把握することは非常に困難であることがわかった。その理由として、まず、外国人登録と居住実態の乖離がある。次に、ニューカマーの子どもの日本における公教育が義務教育ではないために、「不就学」の定義が不明確であるという点が挙げられる。以上のことから、今後の「不就学調査」は、個別の「不就学」ケースを洗い出し、公教育へとつなげていくための役割が求められると考える。さらに、外国人児童生徒の「不就学」は、国際的にも普遍的な問題であるため、今後は各国の経験と成果を調べ、ニューカマーの子どもに必要なシステムや支援を構想していくことが課題である。

  

下田薫子(2008)「日本の小学校における外国人児童の学級適応状態の類型化」『名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要(教育科学)』55巻 第1号 名古屋大学 pp.37-47.

 

 公立学校に就学する外国人児童の数は増加傾向にあるが、こうした子どもたちを学級の一員として指導し、学級への適応を促すことは難しい。本稿の目的は、外国人児童の学級適応の課題を検討し、適応の過程を観察・分析することをとおして適応状態の類型を明らかにすることである。類型化によって子どもたちの状態を把握することは、よりよい指導法を導き出す上で有効であると考えられる。筆者は日本語教師として加配された公立小学校において、子どもたちの会話や動向をメモに残し、教師や児童にインフォーマルなインタビューを行って観察記録を作成した。その分析結果として、12人の事例を4類型(「自適」、「率直」、「迎合」、「アウトサイダー」)に分類することができた。こうした類型化により、これまでの学級適応のための働きかけに対する反省的な視点が得られたといえる。今後、分析対象の児童数を増やすなどすることで、より一般性の高い類型化が得られる可能性がある。


川口直己(2008):「在日外国人児童の学業達成に関わる要因の理解―教師へのアンケートによる調査を通して―」『異文化間教育』21号 異文化間教育学会(アカデミア出版会) pp.32-43.

 

 本稿の目的は、外国人児童生徒を実際に指導している教師たちが教科学習内容の理解に必要な要因をどのように捉えているかを明らかにし、外国人児童生徒への関わり方が異なる教師間の意識の違いとその要因を探ることである。調査は、東海地方の公立の小学校と中学校において、外国人児童生徒の指導に携わっている教師179人を対象にして、質問紙により実施した。調査の結果を①全体的な傾向、②小学校教師と中学校教師の調査結果の比較、③日本語教室の担当教師と担任(教科担当)教師の調査結果の比較、における3点から分析した。分析の結果明らかになった教師間の意識の差は、教師が協力して学校全体として外国人児童生徒への指導に取り組むことを困難にすると考えられる。意識の差があることをお互いに認識し合い、その意識の差がどうして生じるのかを考えることが重要であるといえる。今回のような分析から教師の意識を一般化するためには、今後、大規模な調査が必要である。

 

 

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